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tekoireフィクション行状記

小説、映画、アニメ漫画などの消費記録を投稿しています。

土橋真二郎『女の子が完全なる恋愛にときめかない3つの理由』 感想

小説 ライトノベル

概要

土橋真二郎の最新作です。あまりライトノベル読者といえるほどに読んでいるわけではないのですが、土橋真二郎は追っかけることにしています。

テーマはいつもどおりの土橋節を恋愛に適用したもので『純愛を信じる鈴木夕凪/打算と理性で恋愛で儲けることを企む青山亜衣や生徒会のイデオロギーが衝突しつつ、その合間にて打算寄りの価値観を持つ主人公が徐々に鈴木夕凪に接近し……。』というところでした。ひとことで言うと『愛/金と打算』ですね。毎度のことながら、ともすれば手垢のついた使いふるしのテーマを如何に展開の中で料理し、かつ叙情を物語に沿えるのかという点において、土橋真二郎はサラッとやってくれます。
今作で既刊と明確に違うところがあるとすれば、短編の連作の形式を明確に採用していたところでした。OP-TICKETもそうでしたっけ。手元に無いので確認出来ませんが。普段は一作を通して一つのソリッドシチュエーションの中で展開するのですが、今作は数編に分けてそれぞれ固有の展開を持ちます。正直言って中盤以降、監獄サークルに入ってからは夕凪の持つ純愛や打算というテーマがどこまで利用されていたのかはぼんやりしてしまった感は否めませんでしたが、ちょっとしたゲーム展開モノの短編としては楽しく読むことが出来ました。

超展開

この手の作風でいちいち目くじらは立てませんが、いきなり恋愛に関する記憶を失った女子が出てきて恋人候補を当てろ、というのは完璧に超展開でしたね。作品全体を通したソリッドシチュエーションものと異なり、明確にあらすじが述べられてなかったので、どのような展開をするのか気になっていたところですが、ラストの生徒会とのゲームといい突拍子もない展開をします。そこを気にする作風ではないので些細な事ですが。

恋愛コンペティション

実を言うと最初は倒叙トリックなのかと疑っていました。米澤穂信の『愚者のエンドロール』のように、如何にして既存の事実から情報を継ぎ接ぎして事実をお膳立てるかというようなことをやるのではないかと勝手に期待しておりました。着地点として高浜の経済力がポイントになるのは良いですし、神崎が北海道にいったり、リングを買い占めたりといった行動がその伏線になっていたのは分かるのですが、それにしても読者側に「果たして何を勝利の焦点にしているか」が提示されてなくて、神崎がどうやって本物の恋人を相手にして勝利するのかがわからず後手に回る苦しい行動を見せられ続け、最後に瓢箪から駒ではどうにも。そういった不明瞭感は目立った章だった気がします。

 

女尊男卑

『楽園島からの脱出』『OP-TICKET』などはもちろん『コロシアム』において萩原が女性である月島に戦うことを強要せざるを得なかったり、『生け贄のジレンマ』でもやはり女性が中心だったりと、ライトノベルとしての文脈を除いても不思議な女性観があります。
今作の囚人の恋において


『「女は男を支配するために戦う。そうでしょ、私たち女は男女平等を訴えるけど、その内実は男に奴隷になれということ」』
『確かに女は本当の平等を求めていない。男が築き上げ独占している領域に、男女平等を掲げて踏み込んでいるだけだ。故に専業主夫などは許されない。メディアを巻き込んで一斉に批判し駆逐する。』
『社会には女が男を屈服させ支配するシステムが出来上がっている。だからこそ、中心は女性なのだ。テレビも雑誌も企業も、女性たちに尻尾をふる。』

という文章が出てきますが、ハム速と痛いニュースを読み続けた高校生みたいなこと言ってますけど大丈夫でしょうか?何か思うところがあったのか。創作内容がすなわち作者本人の主張だとは考えるほど愚かではありませんが、それにしても地の文でここまで勢いのある文章が出てくると心配してしまいます。

 

ラストの違い

生徒会との賭けに勝ったにもかかわらず、自身の利益を手放し夕凪に対して恋愛感情といっても差し支えのない感情を抱いて迎えにいって終わりましたが、他の作品と比べて主人公が純愛/博愛のイデオロギーへの立場にこれほどまでに明確に転向したことはなかった気もします。サバイバルせざるを得ない厳しさを描きつづける作品群の中では珍しいかも。
それとゲーム展開の最後にちゃんとセンチメンタル的なラストを沿える作風が多いですが、その点でも今回のラストはきちんとテーマの恋愛関係が神埼と夕凪の間で結ばれていてよかったですね。

 

その他

  • 展開の機微においてちゃんと飽きさせないような部分があって、例えば序盤の失脚のシーンで1票だけ裏切り者がいるという誤解をしていたが、実は自分の票数だったとか、こういう細かい展開をちゃんと見せてくれると飽きないで読めてポイント高い。
  • 神埼と夕凪の掛け合いは最高でしたね。土橋真二郎電撃文庫の中では堅い作風だと思いますが、あざとくなく、展開に絡ませたギャグをフェイントのように使うのはめっちゃ良い。後半は展開上フェイドアウトしましたが、アホの子の夕凪が神埼にボケまくってるのを見ていたかった気もします。
  •  依然として苦しくなると説明的な例示の羅列に逃げます。生け贄とかも『説明しようっ!』みたいなシーンがやたらと入ってた気がする。
  •  p222『自販機!』笑った。名前呼んでやれよ。

総括

ネットの感想などを見る限り社会をカリカチュアした舞台装置としての超規模の学園や極端な情報ゲームとして恋愛を扱うことなどについていけないという人が多い印象を持ちます。まぁそこら辺は「そういうもの」と納得する必要があるというか。僕はカリカチュアされた社会としての情報ゲームをどれだけジュブナイル読者の視界の限界である『教室』の中で実現出来るか、という部分にライトノベル作家としての土橋真二郎の本随があるのではないかと思っています。なのである意味で『扉の外』から訓練されてきた読者なら「いつもの土橋作品ね」と納得できるのですが、今作が初土橋作品だとそこら辺に違和感を持たれるようです。そういった方は是非『扉の外』から読まれることをおすすめしたいです。二、三作読めば(調教された結果)違和感なく入り込めること間違いありません。

なんか感想を書いてみると批判点が続いたように思いますが、決してそんなことなくとても楽しく読むことが出来ました。デスゲームとしてのソリッドシチュエーションから始まった土橋真二郎作品ですが、次はどのようなテーマを情報ゲームの盤上で展開させてくれるのか、心待ちにしたいと思います。